ひこばえの意味

 

木を切った後の切り株や、倒れた木から出

来た新しい芽のことを、“ひこばえ”

いいます。秋に田んぼの稲を刈った後に

てくる 稲の新芽も そう言います。

 

 それは、単なる”脇芽”ではなく、一度切

られ、あるいは倒されてしまった命を再び

蘇らせ、つないでゆく、いわば

”再生”の”芽”とも言えると思います。

 

・・・・・・・・・

 

この地を手に入れ、ログハウスの建設に

とりかかろうとしていた矢先の

ことでした。

その頃経営していたガソリンスタンドで、

修理の為にリフトで上げた車が私の頭上

落ちてきて、その車の下敷きになり

ました。

 

倒れた瞬間、何が起こったか分らず

思わず頭に手をやると、ばっこり

へこんでいるのがわかり、すぐに口や

鼻から血が噴き出してきました。

 

薄れゆく意識の中で、家族のこと、

会社のこと、そして、父のことが思い出され

ました。

死ぬのかな・・・おやじ・・・

 

        早いなあ・・」

 

左前部頭蓋骨骨折という瀕死の重傷を

負いながらも、なんとか一命を取り留

めることが出来ました。

 

そう、“二度目の命”頂いたのです。

 

 

 

 それは私が41歳の厄年の時のこと

でした。

 そして、はからずも、その日は・・・

 

     父の月命日でした。

 

幸いなことに、左顔面が潰れてしまった

ことで、それがクッションになり、脳が

少しやられただけで済んだのでした。

 

後遺症は、匂いの神経がズタズタに切れ

てしまって繋ぐことが出来ずに、匂いが

全くしないのと、左眼球周りの筋肉も切

れてしまい、左右がずれて動くために

まっすぐ見る時にしか焦点が合わない

という以外は大した後遺症も無く、

約2か月半で退院することができました。

 

退院してすぐにログハウスの建設に

取り掛かりました。

カミさんはといえば、雨の日も風の日も、

そして指先が凍える雪の日も丸太の皮を

その細い手で剥いでくれました。

 

カミさんが剥いてくれた丸太を、

私がチェンソーでカットし、一本

づつ積み上げてゆきます。

高い所や、難しいところは大工さん

まかせて・・ ・・

ログハウスの完成には年半を要し

ました。

 

ログハウスで、ペンションと農業を

やろうと決めていました。

名前はどうする・・・?」

丁度そんな時、カミさんが読んでいた

雑誌を開いて、

おとーさん、これ、どう?」

それは、小椋桂さんが銀行を辞めて、

音楽の道に進もうと決めた時の対談

載っていて、その中で小椋桂さん

これからの第二の人生を 

 「ひこばえの人生を歩む・・」 

のだと、言っていました。

 

「いいんじゃないか」 

この地に来て、私が2度目の命を頂い

たこと、そして私達にとって新しい

仕事である”ペンション”と農業をやる

ということ、 そして何より、訪れて

くれたお客様が、 この緑の森の中で

癒されて、リフレッシュ(=再生)して

頂ければ 嬉しな。

 

 こうして、ペンションの名前を 

”ひこばえの里”(再生)と名付け

ました。

  

ペンションを10年程やったあと、

ペンションで知り合った方と、一緒に

西彼町の方で無農薬での青じそのハウス

栽培と販売の事業を立ち上げました。

ところが、パートナーの事業は、まだ

無農薬での栽培ノウハウが完全では無く、

経営は困難を極めました。

 

ついには、パートナーの経営する本社が

倒産し、我が社も倒産の危機に陥りました。

銀行や、取引先、税務署などと何度も

交渉を重ねがら、東京へ出向いて出資

してくれる企業を探しだして、どうにか

危機を脱することが出来ました。

 

その後、改めて社員とともに気象、

植物生理、土壌のこと、微生物のこと、

発酵のこと、栽培管理、あらゆることを

猛勉強と、実験と検証を繰り返し、ようやく

完全無農薬栽での青じその栽培方法を

確立し、安定経営に至ることが出来ました。

 

経営を引き受けてから、6年目のことでした。

その頃には、心身ともに疲れ果ててしまい

その後3年程して、後進に引き継いでもらい

青じその無農薬栽培ハウスを後にしました。

 

それから2年程して、元ベランダだったところ

に屋根を載せて、カフェにし、併せてケーキ

も製造販売することにしました。

 

その名前は、この地の代名詞として、

カフェにもそのまま引き継がれること

なりました。 

訪れて頂いた方々が、ゆっくりと時間

が流れる森の中で、を遊ばせ、 安心

安全な素材で作った パンお菓子

そして旬の新鮮な材料を使った食事で、

体を癒すことができれば 

・・・と、思っています。

 

ひこばえの森の緑に囲まれて

 心豊かなひと時を、 

 お過ごしいただければ幸いです。